ひげ雑感 改正風営法

ひげ店主は22歳から39歳まで音響という仕事のみに従事してきました。
会社で音響を学んだ時期もありますし、フリーランスとしてクラブの専属オペレーターであった時期もあります。今も趣味程度ですが京都木屋町で数店出入りさせていいただいております。

 駆け出しの頃、私は京都川端丸太町のCLUB METROという老舗のクラブで音響していたのですが、近隣住民からの苦情はつきものです。クラブの音楽は基本的に低音を大切にしています。勿論、全帯域が気持ち良く鳴っているのが条件ですが、低域は少し強調して出力します。そうすると音圧を上げる事が可能だからです。しかしそんな快楽原則に則っているとご近所さんからの苦情が頻繁に来るようになります。

 ご近所さんの睡眠や生活を邪魔したくないという想いとミュージシャンの熱い演奏、天秤にかける事は不可能です。メトロは苦情解決に乗り出しました。苦情は隣のマンションのスピーカーに近い一室から頻繁に来る様なので、居住者さまにおことわりしてどれ位音が漏れているかを測定させてもらったりと調べていくうちに、基礎が共通になっている箇所があるとわかりました。そうなると音量を維持する事は難しくなっていきます。そんな時に京都をベースに活動されている音響の師匠がスピーカーをイメージだけで鳴らすのではなく各周波数帯をフラットに鳴らすと苦情が減るかもね、という意見をいただき、スピーカーの測定を始めました。すると最初はぎこちない音がしていたのですがだんだんと苦情が減りながらもお客さんやミュージシャンが満足できる音が出せるようになっていきました。その経験からスピーカーの置き方一つで不必要な低音を減らす事も可能であり、音響の知識の乏しさゆえ苦情を作る事もあると知ったのです。

 今回の風営法改正はそうやって必死で苦情を聞き流さずに受け止め、育んできた環境を「営業許可区外」という理由のみで営業許可が剥奪される可能性がある、まさに暴挙だと思います。それはCLUB METROに限った話ではありません。「営業許可区外」と警察に警告される全ての店舗それぞれにストーリーがあり、大切なシーンを形成してきました。
ミュージシャンが安心して演奏できる場所を提供する事は、私たちの文化を守っていく事でもあります。少なくとも新規開店は不可でも仕方がないかもしれませんが、許可区外の既存店舗も「営業許可区域」のみで判断せず、営業の実績や近隣住民に対する姿勢など、多角的な事象を含めて営業可能か否かを検討する必要があると思います。しかし本音としては、人生を賭けて音楽とその文化に携わる人間の邪魔をするな!と言いたいです。

 全ての方が大きな音で音楽を演奏する場所を好むとは思いません。しかし多様性は認めるべきです。私の周りには少なからず音楽に没頭できたお陰で人生を踏み外さずにすんだと言われる方を知っていますし、私自身がそうなのかもしれません。音楽の魔法を知った人から大切な場と音を奪うことの罪を権力を行使する方々には意識していただければと思います。